その形をまだ見たことがない人に、どう表現すればこの形が伝わるだろうか。
なめらかな曲線をした、大きな深いお皿を、うつ伏せに置いたような形の建造物で、その中に、まるでどら焼きの中に入るかのように、人が入ることができるもの。こんな感じ??
四国に行く用事があったので、帰りに瀬戸内海に浮かぶ小島、豊島(てしま)にある豊島美術館に寄ってみた。
少し変わった美術館で、展示されているのはさきほど紹介したような形の建造物というか、オブジェというか、そういうコンクリートの物体のみ。中の空間は想像したよりもずっと大きくて、ミニサッカーくらいできるんじゃないか、というくらいの広さだった。
どの方向を向いても、非日常的な、ミニマムな光景が目に飛び込んでくる。どの向きに写真を撮っても絵になる空間。
入り口から建物の中に入ると、すでに中にいる人たちが数人いて、その人たちがまた作品の一部のようだった。灰色の広い空間の中に、ぽつり、ぽつり、と人が立っている。5人ほど人がいる時がちょうど具合が良いと感じた。
落ち着きの良い場所を見つけて地面に座り、しばらく黙って入ってくるものを感じてみた。耳を澄ますと、2つの開口部から木が風に揺れる音や、鳥の声が聞こえてくる。吹き抜けていく風から、瀬戸内海に浮かぶ島の空気を感じる。遠くから船の汽笛が聞こえる。
視覚だけでなく、聴覚や触覚、五感を全部使って感じられる。これはコンクリートの空間を感じる場所ではなく、島全体を感じることができる場所だ。何も無いおかげで、余計にたくさんのものが入ってくる。
帰りがけに美術館の方とお話していたら、「何も展示がないのにこれのどこが美術館なんだ」とか「これは一体なんなんだ」と言って怒り出すお客さんもいるらしい。まあ分からなくもないけど、これはこれ、ですよね。目の前にあるこれをただ、そのまま感じられたら気持ちが良い。どら焼きだろうとなんだろうと、説明しようと思うと何か適当なラベルが必要だけど、実物はここに来て、体で感じたそのものでしかないし、それで十分だ、と思った。
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