自転車とインターネット

はてなの特徴の一つに、社員のほとんどが自転車通勤をしている点があります。渋谷にあるオフィスに社員の8割以上が自転車で通っています。

僕がもともと自転車好きだったという影響が大きいのですが、そもそも現在のオフィスが駅から離れていて電車通勤に不便だというだけでなく、これにもまたいくつかメリットがあります。

毎日運動することで健康に良いですし、体力もつきます。外気に当たって運動していると朝オフィスについたときに眠気が覚めて仕事を始めやすいですし、風邪もひきにくい気がします。社員で飲み会をしても帰りの電車の時間を気にしなくてすみますし、サーバーに問題が起こったら夜中でも会社に駆けつけられる安心感もあります。大体、インターネットサービス提供会社なんてものをやっていると、放っておくとずっと会社にこもってプログラムばかり書いている、みたいな生活になってしまいますから、こういう事を毎日続けるかどうかで随分体の調子も変わるんじゃないかと思っています。

自転車で帰宅すると、帰宅途中の色々な場所に寄って帰れるのも魅力の一つです。本屋に寄ったり食事をして帰ったり、と気ままに寄り道しているだけで随分生活に幅が出てきます。

自転車通勤は最近「自転車ツーキニスト」といった言葉も出てきて、都内でも少し増加してきている感じがしますが、東京都内の道は決して自転車で走りやすいとは思えません。僕は昔からサイクリングで日本中の道を走ってきましたが、実際東京の道ほど走りにくい道は無いと思っています。自動車が多く、他の都市と比べて路肩が際立って狭いために、車道を走ろうと思うとちょっとした覚悟が必要になります。車道を走るとどうしても自動車や二輪車とのちょっとした「闘い」になってしまい、この闘いへの覚悟が必要になってしまいます。別に毎日道路の上で闘いたいとは思わない人(ほとんどの人はそうでしょう)は、歩道を歩行者に気を配りながら走るか、電車に乗るしかないのです。

東京は日本の中でオフィスで働く人が最も多い都市で、潜在的に自転車通勤を行いたいと思う人口も一番多いはずなのに、こうした環境をとても残念に思います。

道の問題だけではなく、駐輪場の無いビルが多いことや、シャワールーム・更衣室が無いオフィスが多いといった問題もありますが、こういう問題が徐々に改善されて、もっと自転車通勤が広まり、自転車でも走りやすい町になっていけばいいなと思っています。

僕は個人的に「駐輪場はどこですか運動」(勝手に僕が名前をつけました)というのをやっていて、仕事や用事でオフィスビルやホテルなどに行くと大体入り口で「駐輪場はどこですか?」と訊くようにしています。駐車場があるなら駐輪場があって当然でしょう、というちょっとした主張のつもりですが、「そんなものはありません」と言われることも多いです。守衛さんにこんな主張をしたところでどれくらい効果があるかは不明ですが、たくさんの人がやれば「最近自転車置き場を求める声が大きくなっているから…」みたいな話になるかも知れません。

さて、自転車の話が出たついでに、自転車とインターネットの共通点について触れておこうと思います。よくインタビューなんかで、「自転車とインターネットはどのように関係していますか?」と訊かれるのですが、一見全く関係の無さそうな両者にも少し共通点があるように思います。

まず、競争がとても自由で公平な点です。自転車で道路を走るのが無料なように、インターネットのネットワークを利用するのもほぼ無料のようなものです。大きな組織に属していたり経験がないと使えないというものではなくて、いつでもどこでも自由に利用することができます。誰かが安全を保障してくれるといよりは、どちらかというと自分でスキルを身につけて自分で身を守っていくしかない部分も似ています。

場所に縛られない点も似ています。インターネットビジネスが原理的には地球上のどこでもネットに繋がる場所であれば始められるように、自転車の能力を磨くこともまた地球上のどこでも道があれば始められます。

こういう環境の中でのレースでは、プレーヤーの裁量の幅が広く、競争に「人間臭さ」が出ている部分も似ています。この連載で触れているような、サービス提供者の顔が見えるとか、運営者とユーザーとの境界がオープンであることにも意味があるということは、インターネットが特定の産業構造を規定するものではなく単なるインフラであることに起因するような気がします。

自転車のロードレースは、基本的なルールは「ゴールに最初にたどり着いた者が勝ち」という単純なものです。道路の上を100kmとか200kmとか走って、最初にゴールを横切った選手が優勝する、というそれだけの勝負ですが、その勝負の中にはとても人間臭い部分が含まれます。例えば選手たちが食事を補給している間に攻撃を仕掛けてはならない、といったようなことがルールブックではなく慣習として存在していますが、こういう部分に人間臭さを感じます。

例えば自動車メーカーならば、基本的には自動車を作って売る、ということを行うわけで、そこに「自動車業界」みたいなものが存在するわけですが、この自動車を「インターネット」に置き換えてみると、「基本的にインターネットを使って何をやっても良いですよ」ということになって、あとは自分で考えなさい、という感じです。それがインターネット業界です。物を売る人もいれば、テレビを作ろうとする人もいる、世界中の情報を集めようとする人もいれば、人を集めてコミュニティを作る人もいる、という雑多な状態です。

そういう中で、自分でルールを決めて勝負をしていく感じは自転車レースにそっくりだなと思います。

入稿

3つ目です。よろしくお願いします→id:mohri