コンペで決めるディレクター

はてなの中には10を超えるサービスが存在しますが、それぞれのサービスにはサービスの方向性を決めて開発の陣頭指揮を執るディレクターが存在します。

2005年秋に、コンペによってこのディレクターの選出する試みを行いました。コンペの参加者は社員に限定されていますが、複数人の社員がコンペ期間に向けて自分の思いを形にしたプロトタイプサービスを開発してもらい、コンペ期間中にユーザーに向けて公開。1週間のコンペ期間後、ユーザーの人気投票なども参考に次期のディレクターを選出するという取り組みです。

2005年秋に行ったフォトライフコンペについては、結果的に候補作が1週間のうちには出揃わず、残念ながらユーザーに向けての公開と投票を行うことはできませんでした。しかし、未完成ながら各候補者の作品を社内向けに発表し、その発表を元にディレクターの引継ぎを行うことはできました。

ディレクターの選任、といった責任あるポジションの人事については、なかなか話し合いで決めにくい部分があります。どれだけ本人がなりたいといっても能力が伴わなければ業務を全うすることができませんし、逆に実績が無ければなかなかその能力を発見することができません。上司や取締役が熟考して選ぶ、といっても、実際に誰にお願いをすれば一番力を発揮してくれるのかは事前にはなかなか分からない事もありますし、自分と仲の良い人をひいき目に見てしまうこともあるでしょう。候補者が一人であればまだ楽かもしれませんが、複数の候補者が1つのディレクターのポジションを希望する場合などは、何を持って選出を行うべきなのかは悩ましい問題です。

はてなのようなウェブサービスを提供する企業の場合、サービスには常に新規性が求められます。ドッグイヤーという言葉があるように、人間の何倍もの速度で育つ犬のようなスピードでどんどんと物事が変化していく世界ですから、「経験を積んだベテランのディレクターの言うことを聞いていれば間違いがない」という考えだけでは遅かれ早かれ失敗することが目に見えています。

そこには、新しい視点で既存の仕組みを破壊し、物事を再定義するような力がいつも求められていて、その力とこれまでの蓄積をうまく融合させられるかどうかにサービスや企業としての存続がかかっているように思います。

この難しい問題を乗り切る仕組みとして、コンペという方法にはこれからも期待をしています。計画通りにはいかなかった1回目のコンペですが、それでも各参加者の頭の中で描いていたサービスの未来像や理想、そのサービスに賭ける思い入れ、ものづくりのセンスなどが垣間見えました。各自の思いが形となって現れて来ると、おのずと適任者は誰なのかということが見えてくる気がします。

これは、コンペの参加者だけでなく他の社員にしても同様で、このような公平な機会によって選任されたディレクターであれば、その後も納得して開発に協力できるのではないかと期待しています。

コンペ期間中に作成された複数のプログラムが無駄になるのではないかという考えや、コンペ期間中に社内の業務が滞るのではないかという危惧はありますが、将来のサービスの成功を占うディレクターに適任者が見つかり、皆が納得してそのサービスの開発に携わることができる価値に比べればそれほど大きな問題ではないかも知れません。

入稿

原稿その2です→id:mohri