予測市場で要望を吸い上げる2

はてなの全サービスにわたって、多くのユーザーから効率的に要望を集めるにはどうすればよいか。
この仕組みを考える中で、まず思いついたのははてな質問箱
http://www.hatena.ne.jp/faq/
のような仕組みです。各サービスごとにカテゴリーが分かれていて、そのなかに要望投稿フォームがあり、要望が投稿されるとメールが送信されて、社内で処理をする、という仕組み。
こうすれば、要望の窓口を一元化して多数の要望を集約できることが見込めますが、一度登録された要望の管理にまだ問題が残ります。
例えば毎日投稿される要望が30件あるとして、1日に実装可能な要望は5件しかないとすれば、残りの25件は実装待ちかペンディングか却下になります。こうしたものを効率的に管理できなければ、数日間で未処理の要望が溜まりに溜まって破綻してしまうことは明らかです。
社内にあしかのようなタスク管理システムを作って管理をする方法もありますが、せっかくならばそれぞれの要望が今どういう状態にあるのかをオープンにしたいわけです。
続いて考えたのが、投稿された要望がいつもオープンになっていて、さらにその要望に賛成するユーザーが投票できる、という仕組みです。こうすれば、同じ要望が何度も登録されることを防ぐことができ、さらに、登録された要望の中から重要なものを抽出することができます。
この仕組みは分かりやすく、それなりに機能しそうではありますが、はてなとして応えられない要望に対するはてなとユーザーの対立、という懸念が残りました。
つまり、例えば「有料オプションを半額にして欲しい」という要望が登録された際に、こういう要望は多くの賛成票を集めるでしょうが、そもそもはてなとして運営を継続するために、それに応えることはできない、という場合があるわけです。
また、賛成している人が多い要望が良い要望なのか?という疑問があります。各ユーザーが「自分にとって欲しいかどうか」という観点のみで投票を行えば、投票を行ったユーザーの中での人気投票のような状態になり、それははてなのユーザー全体を反映した声になるのかどうかという疑問が残ります。
10人のユーザーからある要望に対して賛成票が投じられているけど、実はそれを望んでいるのは25万人のうちその10人だけで、他のユーザーは現在の機能で満足している、という場合も考えられるわけで、この「他のユーザー=物言わぬ人々」の気持ちをいかに考えられるかが大きな問題でした。

予測市場

そういう時に予測市場という仕組みに注目をし始めました。
例えばアメリカにはHollywood Stock Exchange(HSX)という、映画作品の株式や俳優のファンドを仮想的な通貨(ハリウッド・ドル)によって取引する仮想市場の仕組みがあるのですが、この市場でのアカデミー賞の受賞予測が、専門家や単なる投票による予測よりも正確であった事例などが
http://www.h-yamaguchi.net/2005/03/20050227.html
などに紹介されています。
Yahoo!Moviesでの人気投票が6賞中2賞しか当てられなかったのに対して、HSXは8賞全てを当てています。
これは、Yahooユーザーが「自分はどの映画が好きか」を元に投票する仕組みよりも、HSXユーザーが「どの映画が賞を取りそうか」を予測して取引を行う仕組みの方が物事を予測する能力が高いという事だと思います。
(1つの事例だけでこの結論を導くのは危険ですが、その他にも予測市場の有効性については山口氏の予測市場カテゴリーや、フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)フューチャー・オブ・ワークなどに紹介されています)
「どの映画が賞を取りそうか」という予測の際には、「自分がどの映画が好きか」という問題以外に、「他人はどの映画が好きそうか」という他人の視点が入ります(ケインズの美人投票理論ですね)。
これはまさに、さきほどの「他のユーザー=物言わぬ人々の気持ちをいかに考えられるか」という問題の解決法になると考えました。

(つづく)